臨床と基礎の架け橋となる研究を目指して
との西田教授の号令の下、積極的にアカデミックな活動を行っています。
基礎研究や海外留学の経験がある医師、現在留学中の医師、大学院生など、日々の臨床においても、基礎研究に目を向けています。私たちは、ヒト試料やマウス、ブタなどの動物試料を使って、血液浄化や栄養管理、呼吸管理を免疫学的視点から探求し、敗血症やDICの病態解明、治療効果、新しい治療法などを究明しています。
臨床につながる基礎研究を他大学、多施設、産業界とも連携を取りながら進めています。
研究内容紹介
敗血症研究においては、世界中で様々な研究が進められている一方、マウスは炎症性疾患のモデルとして適当でないという報告もあります。我々は生理学的、解剖学的に人に近似しているブタを用いて敗血症モデルを作成し、敗血症の病態解明に取り組んでいます。LPSや生菌を用い敗血症モデルを作成していますが、より臨床に近い状況を作成するため、輸液、昇圧剤を使用し循環管理を行いながら、人工呼吸(Evita XL®)、体温管理(ベアハガー®)なども行いつつ、6時間以上病態の観察を行っています。評価項目も心拍数、血圧、尿量など一般的なバイタルサインのみならず、経肺熱希釈法(EV1000®)を用い心拍出量や肺血管外水分量などの測定、血算、血液ガス分析、生化学検査、サイトカイン濃度測定、エンドトキシン濃度分析などの血液検査、フローサイトメトリーによる好中球の接着能や貪食能の評価、実験終了時には剖検し各種臓器の病理組織学的評価、肺の乾湿重量比の測定など多岐に亘ります。これまで試行錯誤を繰り返しながらシステムとして完成してきました。治療効果の判定や安全性評価試験などさまざまな研究に応用可能です。
敗血症とは感染症により臓器の障害が起こっている致死的な病態です。この病態では、侵襲により過剰に産生されたサイトカインや細胞死の結果産生されるメディエータ、活性化白血球などが複雑に関与しています。私たちはこれらの病因物質の除去や異常な免疫状態を正常化する目的で、新しい吸着材や血液濾過膜を用いた血液浄化システムの開発を行ってきました。薬剤の基礎研究ではマウス、ラット、ウサギなどの小型動物を使いますが、体外に血液を循環させる血液浄化システムの場合、小型動物では失血死してしまうため基礎研究はできません。そこで、私たちは、恐らくは日本で唯一のブタを用いた集中治療モデル、血液浄化モデルを構築しました。このブタモデルを用いた免疫制御血液浄化システムの基礎研究成果は、国内外の学会でも公表しています。まもなく世界初のシステムとして治験へと進階する予定です。私たちのブタを用いた集中治療モデルは、循環動態、呼吸状態などもICU患者さん同様にモニタリングできるため、治療機器のみならず、薬剤の有効性、安全性を評価する基礎研究にも応用できる技術的プラットホームとなっています。
我が国での疼痛に関する疫学調査によると、全人口あたり15.4%(2000 万人以上)が慢性疼痛に罹患していることが明らかになっており、慢性疼痛は本邦の国民病であると言われています。慢性疼痛の病態は神経障害性疼痛と機能的疾患による疼痛に分類されていますが、いずれの場合でも神経系の異常が原因と考えられています。この病態機構を解明する為に、初代培養知覚神経細胞を使用することは極めて有用と考えられますが、採取量が制限されるため、あまり普及していません。そこで私たちは、胚性幹細胞(= ES 細胞)や人工多能性幹細胞(= iPS 細胞)から知覚神経細胞への分化誘導ができれば、均一な知覚神経細胞を十分量確保することが可能となると考え、研究を行っております。この研究はH29年度の科学研究費の若手研究に応募し、採択されました。ES細胞及びiPS細胞からの知覚神経細胞への分化誘導法が確立できれば、慢性疼痛研究において極めて有用なツールとなると考えています。
敗血症の国際的な定義が2016年に改訂され、「臓器障害」を重視した新定義となりました。近年新たに発見された、好中球の自然免疫機構の1つである好中球細胞外トラップ (NETs)が、過剰形成されることが敗血症の重症化、多臓器不全に関与しているといわれています。私たちはこれまでの一連の研究で、リコンビナントトロンボモジュリン(rTM)がヒト好中球培養実験においてNETs形成を抑制すること、敗血症モデルマウスの肝臓内のNETs 形成を抑制することを発表し、日本麻酔科学会、米国集中治療学会(The Society of Critical Care Medicine :SCCM )など国内外の学会で受賞しました。この成果をもとにH29年度の科学研究費の若手研究に応募し、採択されました。
現在行っている研究内容は、NETs形成抑制による敗血症性多臓器不全の新たな治療戦略です。rTM が臓器内のNETs 形成を抑制するという着想は全くなく、本研究は敗血症治療において新たな治療戦略として期待できると考えています。
フローサイトメトリー法、ELISA, WESTERN法、PCR法、免疫組織染色と共焦点レーザー顕微鏡や走査電子顕微鏡 (SEM:Scanning Electron Microscope) を用いた高解像度イメージング技術など、ヒトや敗血症モデルマウスから得られた試料を用い、様々な手法で研究をおこなっています。