研修医の先生が麻酔科研修中に一番つまづきやすいところは、ガンマ計算ではないでしょうか?シリンジポンプにはml/hの単位しかないのに、「μg」、「kg」、「min」とシリンジポンプにはない単位が並び、さらに"/(パー)"が2つもついています。考える前に嫌気がさして、流量換算表やパソコンに頼る、もしくは「体重50kgの人で1γ= 3mg/hだから、体重●kgのこの患者さんでは大体■γぐらいかな?」と類推している人が多数ではないでしょうか?せっかく麻酔科研修を行っても、流量換算表やパソコンがないと麻酔をかけられないのでは悲しすぎます。少し考えると、ガンマ計算は実はすごく簡単なものなのです。
まずなぜガンマ計算が必要か考えてみましょう。
「体重10kgの赤ちゃんと体重100kgの力士に、ある薬をそれぞれ3mg/h流しました。」
と言ったとき、その効果が同じだとは思いませんよね。赤ちゃんにとっては多すぎるかもしれないし、力士にとっては少なすぎるかもしれない、と思うのが普通の感覚だと思います。
しかしそのままだと比較のしようがない。そこで考え出されたのがガンマ計算で、同じ効能を示す重量速度を体重換算してみたものなのです。難しく考えないでください。例えるならば「赤ちゃんはおにぎり1個でおなかいっぱいだけど、力士がおなかいっぱいになるためにはおにぎり10個必要」みたいないことを言ってるだけです。「体重あたり…」「1分間あたり…」と考えていくうちに、"μg/kg/min"に行き着いてしまっただけなのです。
それでも "γ=μg/kg/min"はやはりとっつきにくい。
しかし "γ=μg/kg/min"はしょせん単位でしかありません。
見慣れない単位が並び、"/(パー)"が2つあるからとっつきにくいのならば、とっつきやすい単位に変えてしまえばいいのです。
1γ | = | 1 [μg/kg/min] | |
↓ | まず体重を消しましょう 体重をかけると”/(パー)”が1つになります |
||
= | 1×体重 [μg/min] | ||
↓ | μg=1/1000mgなので | ||
= | 1×体重×1/1000 [mg/min] | ||
↓ | シリンジポンプは普通「1時間あたりの流量」だから 60分をかけます |
||
= | 1×体重×1/1000×60 [mg/h] | ||
↓ | これを整理すると | ||
= | 0.06×体重 [mg/h] |
ずいぶんすっきりしました。臨床上、理想的には[mL/h]がいいのですが、製剤によって濃度はまちまちであるため、ここで一度ストップします。ここまでは、どの教科書にも載っています。
じゃあここからどう考えるのか?ここからが重要です。
大事なのは「この患者さんにとって、1γが何mg/hなのか?」
をしっかり把握することです。術中、水分のin-outで多少の体重変化はありますが、通常は問題になりません。体重が決まれば、1γが何mg/hなのか決定されるため、1γはその患者さん固有の値となります。
- 体重50kgの人であれば、1γ= 50kg×0.06 = 3.0 [mg/h]
- 体重75kgの人であれば、1γ= 75kg×0.06 = 4.5 [mg/h]
となります。
小数点の計算が苦手な人は「6×体重をして小数点を左へ2つずらす」
と考えてください。2桁×1桁の掛け算は小学3年生レベルの算数です。できるはずです。
- 体重50kgの人に3γ流すのは、1γ= 3.0mg/hだから3をかけて3γ= 9.0mg/h
- 体重75kgの人に5γ流すのは、1γ= 4.5mg/hだから5をかけて5γ= 22.5mg/h
となります。
どうです?簡単でしょう。
では逆に「ある患者さんに、ある薬が10.8mg/h流れています。」といったときはどう考えるのか?これも同じです。まずはその患者さんにとって、1γが何mg/hなのか、を把握することから始まります。
- 体重60kgの人であるならば、1γ= 3.6mg/hだから10.8÷3.6 = 3.0γ
- 体重75kgの人であるならば、1γ= 4.5mg/hだから10.8÷4.5 = 2.4γ となります。
ちなみにこちらの割り算は、小学5年生レベルの算数です。やはりできるはずです。
「γとは所詮単位でしかない」
「γ= 0.06×体重 [mg/h]」
「その人にとって1γが何mg/hであるのかをまず把握する」
1週間、この方法でガンマ計算を考えてみてください。
すぐにすらすら計算できるようになります。
※1
ガンマ(γ)は質量の単位です。慣例的に本邦ではガンマを薬剤の投与速度の単位として使用されていますが、海外では通用しないので注意が必要です。