集中治療:24時間あらゆる症例に対応するclosed ICU
麻酔とは、手術という「予定された外傷(侵襲)」から患者を守ることです。この麻酔には、気道確保、呼吸管理、循環管理、鎮痛・鎮静といった、基本的な医療技術・知識が凝縮されており、「生命活動の維持の基本・土台」となるライフサポートのエッセンスが集約されています。
我々は麻酔で培った知識・技術を用い、重症患者に対し全身管理を行っています。全身管理を行う「手術麻酔」が、手術が必要なすべての患者が対象となるように、高度な全身管理を行う「集中治療」も、集中治療を行うことにより回復が見込まれる重篤な急性臓器障害の患者すべてが対象となります。
そして現代の医療において、各疾患を専門的に診断・治療することは非常に重要な事です。しかし、病気が進行し、重症化すると、その侵襲は単一臓器にはとどまらず、多臓器に渡ってきます。このような場合、臓器別に細分化されたもとでの治療は限界を迎えることがあります。
このため、全身管理を行いつつ各臓器別に専門化された医師たちの橋渡しを行い、その高度な知識を集約したうえで治療を行う必要が出てきます。当然この場合は看護師・理学療法士・臨床工学技士・薬剤師・栄養士といったコメディカルスタッフとのコミュニケーションも大変重要となってきます。各医療スタッフがその能力を集約して、病院・地域においての最後の砦となり、最上の医療を提供することが、我々の考える「集中治療」です。
重症になればなるほど、その病態・臓器障害の程度は様々で、刻一刻と変化していきます。このため、画一化された治療が難しくなり、各症例、患者毎の治療が必要になってきます。このような治療を行うためには、24時間365日、患者のそばでその変化する病態を把握する必要があります。このように患者を観察し、その変化に対応し、日々の治療をアレンジしていくことを滴定治療といいます。このような治療は、日々の手術麻酔で同様のことを行っている麻酔科医が最適と言えます。
そして、高度な医療機器や薬剤を駆使し、滴定治療を行っていくためには、指示系統を一本化し治療を進めていく必要があります。
こう考えると、必然的に麻酔科医によるClosed ICUが集中医療を行う上では最適と我々は考えています。
我々はICU 18床、HCU 16床を管理しており、ICU入室症例は年間1000例を越えます。その症例は新生児から高齢者、術後患者、院内急変患者、他院からの転院搬送など、あらゆる症例に24時間365日対応しています。
当院ICU入室の多くを占める、術後症例は、食道癌術後等の一般的な外科症例から、小児外科症例、成人心臓血管外科症例、肝移植、脳死下膵腎同時移植などがあり、近年中には肺移植も始まります。大学病院ならではの多彩なロボット支援下手術症例、肝硬変・慢性腎臓病・心不全等の重症合併症を有する症例もあります。このような手術という名の「予定された外傷」を受ける患者を、手術室からICUまで一貫してシームレスに全身管理を行うことが我々の業務の大きな柱です。
先天性代謝疾患、溶血性尿毒症症候群といった全身管理が必要となる小児症例や体外循環を必要とする重症呼吸不全の症例(他項参照)が全身管理目的に他院より転院搬送されます。特に高アンモニア血症を呈する小児先天性代謝疾患や溶血性尿毒症症候群に対して、体重3kg台の新生児症例にも血漿交換やCHDFなどの血液浄化を施行しています。
https://hospital.fujita-hu.ac.jp/department/anesthesiology.html
高度な集中治療はもちろんのこと、リハビリや栄養療法も、効率的かつ効果的に行うために、臨床工学技士、リハビリのセラピスト、栄養士、薬剤師も毎日のICUカンファレンスに積極的に参加し、治療を展開しています。
V-V ECMO管理中の
リハビリテーション
(※本人の了承を得ております)
リハビリは毎日、ICU専従セラピスト10名が対応しています。リハビリは早期から積極的に介入します。
栄養療法は、経口、経管、経静脈を症例に応じて積極的に行っています。特に経管の場合は、ICU内に透視設備が常備されており、これを利用し経腸チューブをTreitz靱帯を越えて留置し、経空腸的に投与しています。ただし、腸管からの吸収があまり期待できないような場合は経管栄養にこだわらず、経静脈的に投与していきます。
特にこの早期リハビリ介入や、栄養療法は、近年注目されていICU-AW(ICU-acquired weakness)やPICS (Post Intensive Care Syndrome)を防ぎ、長期予後の改善や社会復帰をする上で、極めて重要であるとされています。
ICU担当の薬剤師が常駐し、多臓器障害に陥り、各種代用臓器を用いて治療を行っているICUの患者に対して薬剤投与を行う上で、血中濃度測定を含めた投与計画等の必要な助言を行ってくれています。
チーム医療について
我々の行っている集中治療は臓器不全の学問といわれています。
呼吸不全、循環不全、敗血症性ショック、DIC、急性腎不全など様々な臓器不全がありますが、これらは合併することが多く、不全臓器数が増えるほど、その救命率は指数関数的に下がってきます。これらの患者に対し「内科系、外科系を問わず、呼吸、循環、代謝その他の重篤な急性機能不全の患者を収容し、強力かつ集中的に治療を行うことにより、その効果を期待する部門」がICUと定義されています。
このような臓器不全の患者に対し、我々は
- 急性血液浄化法
- 経”空腸”栄養
- 急性期呼吸リハビリ
以上3つを大きな柱として治療を行っています。
この柱をしっかりとたてていくためには、医師一人の力では不可能となってきます。
まず、急性血液浄化について考えます。これを施行する上で、なくてはならないのが臨床工学技士です。血液浄化だけではなく、体外循環、人工呼吸器、ペースメーカーなど、様々な医療機器がICUでは使われています。こういった医療機器の管理や保全もまた臨床工学技士の仕事のひとつです。また、薬剤師による血液浄化施行条件を考慮に入れた薬剤投与量の確認も重要になります。次に栄養管理についてです。栄養に関しては、医師の考えだけではなく、栄養士の意見も重要となってきます。そして呼吸リハビリに関してです。実際にリハビリを行っているのは理学療法士が呼吸介助を行いながら、呼吸リハビリを行います。また、呼吸リハビリだけではなく、長期臥床による廃用症候群予防のため、鎮静下の患者でもより急性期から、リハビリの介入を行っています。
そして、患者の毎日のケアを行い、一番患者の近くにいるのは看護師です。ちょっとした患者の変化に最初に気づくことができるのは看護師です。
また、ICUで使われる膨大な量の薬剤を把握し、管理してはいるのは薬剤師です。ほかにも、歯科衛生士による口腔ケアや、日々行う血液検査、培養検査を行うのは検査技師がいなくては不可能ですし、レントゲン撮影では放射線技師がいなくてはなりません。
ここにあげきれないほどの医療スタッフが一人の患者のICUにおける治療に関わっているのです。
また、治療方針を決定していく上では、主治医の意見はもちろん、専門家の医師に意見を求めることも必要となってきます。
当院ICUでは朝と夕方に、様々な職種、各科医師を含めたカンファレンスを行い、患者の状態を共有することによって、今後の治療方針を話し合っています。