国内留学体験記:山下 千鶴

愛知医科大学麻酔科への国内留学を経験して

藤田保健衛生大学医学部 麻酔・侵襲制御医学講座 山下 千鶴

2013年10月1日から2か月間,愛知医科大学麻酔科へ国内留学に行かせていただきました。これは,わが教室は超音波ガイド下神経ブロックを学びたい,一方,愛知医科大学麻酔科は今年春から開設されるICUにおける管理を学びたい,という両者の目的が整合し,西田教授と愛知医大の藤原教授のご尽力の元,交換留学として実現したプロジェクトでした。

2か月ずつ3名の交換留学が予定され,その第1陣として愛知医大へ赴任いたしましたので,私が成果を出さなければ今後この制度は立ち消えるかもしれないとの重圧と,短期間で新しい環境で人とのコミュニケーションをうまく取れるようになれるだろうか?の不安に押しつぶされそうになりながら(?)の始まりでした。 しかし,伺ってみると,皆さん積極的に話しかけてきてくださるし,また,2年前に外勤先でご一緒させていただいた先生が愛知医大にいらっしゃったこともあり,心配は無用でした。1週間もたたないうちに,元からいる医局員のようになじんでいた事は,藤田の医局の先生方には内緒です。

2か月間,愛知医科大学の若い先生方と一緒に麻酔を担当しながら,神経ブロックが予定されている部屋を転々と回って「ブロック荒し」をし,他の先生方の手技を見たり,実際にさせていただいたりしながら,多くの神経ブロックを経験させていただきました。全身麻酔導入後に神経ブロックを併用した患者さまでは,術中の麻薬の投与量はごく少量にもかかわらず,手術開始時よりほとんど侵襲を感じずに血圧が安定し,手術後も痛みがないままにすっきりと全身麻酔から覚醒してくる様子には感銘いたしました。ただ,他の先生方がブロックをされているのを見学すると簡単そうに見えるのに,実際行ってみると,エコー画面を適切に描出し,神経や周囲の筋や筋膜を同定するのが困難で,さらに,神経がうまく描出できても針をエコー画面でしっかりと追いながら進めることがまた困難で,2か月で帰って指導できるようになるのだろうか?と不安な日が続きました。明石先生や藤原先生をはじめ多くの先生方にご指導いただきましたが,中でも,明石先生は特に熱心にご指導いただき,うまくいかないときには,必ず,「先生,ネッターでは,**神経は・・・」と麻酔科控室にあるネッター解剖学の該当ページをさっと開き,解説いただきました。主要なページは全て暗記されているようでした。これまで常に病態生理を中心に,麻酔や集中治療を行ってきた私にとって,区域麻酔を中心とした麻酔の考え方は非常に新鮮なものでした。

今回,2か月間の他大学での研修により自施設を離れた事によって,自分たちの業務を外から客観的にみることができたことも収穫の一つでした。また,麻酔科学を解剖学から見る視点が広がったことも非常に貴重な経験でした。さらに,愛知医科大学麻酔科と顔と顔が見える友好な関係が広がったことも大きかったと思います。今後は,藤田保健衛生大学においても,患者主体の医療がさらに進むよう,周術期神経ブロックをうまく用いられるよう啓蒙・指導していきたいと考えています。

最後になりましたが,2か月間の留守の間,実質人員減となり日常業務が大変だったと思います。研修に行かせていただいた西田先生はじめ医局員の先生方に深く感謝申し上げます。