海外研修体験記:原 嘉孝

カロリンスカ大学ECMOセンターの研修を経験して

藤田保健衛生大学医学部 麻酔・侵襲制御医学講座 原 嘉孝

2009年のインフルエンザパンデミック以来ECMOが再認識された。国内の重症呼吸不全に対するECMOの成績は欧米と比べはるかに低い。そのため日本呼吸療法医学会と日本集中治療学会がECMOプロジェクトを発足し、日本におけるECMO治療の普及と成績向上を目的として活動している。今回のカロリンスカ大学ECMOセンターの研修はその一環で行われた。

9月1日から一週間の日程で研修させて頂いた。

スタッフは皆フレンドリーで、ゆとりを持った環境で仕事をしていた。ECMOセンターは基本的にECMO導入患者以外入室しない。ECMOナース、ドクターともに充分な体制となっていた。日本のECMO管理は集中治療や救急の片手間に行っていることが多く、看護体制もぎりぎりで行っているのが現状で、まずはその部分が全く異なっていると痛感した。

ECMOはほぼ最強の生命維持装置である。V-V ECMOであれば肺、V-A ECMOであれば心、肺を補助し、仮に自己心肺がと全く機能していなくても治療効果が得られるまでの時間稼ぎが可能である。逆にその管理を間違えれば急速に非常事態となる。つまり管理は常に慎重に行われるべきであり、片手間にやるべきではないことも研修を通じて感じたことの一つである。

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研修期間中、スウェーデン国内のラピッドカーでのトランスポートも経験した。患者は小児の胎便吸引症候群。カロリンスカ大学からは約2時間の道のりにある小児総合病院。つねに100km超えのスピードで普段気持ち悪くならないはずの私が少し気持ち悪くなってしまった。トランスポートではECMOチームとして心臓血管外科医師1名、ECMO専門集中治療医1名、ECMOナース2名(ECMOナース候補生とそのインストラクター)が同行していた。ECMO導入は要請された病院でまず行われ、安定しているのを確認後にECMO施行下でそのままラピッドカーでトランスポートを行っていた。要請した病院のカロリンスカ大学ECMOセンターに対する信頼感を肌で感じ、日本も今後このような形でのECMOセンター化となるのが理想像と考えられた。現状、日本におけるトランスポートの方法は、救急車またはドクターカー、ドクターヘリが考えられる。いずれもECMO施行下での移動は困難で、今後の課題と考えられる。

私が研修中には200日を超えるECMO施行中の患者が入室していた。その患者の場合、結果的に離脱困難であり、待機肺移植の方針となった。日本でもECMOプロジェクトにより重症呼吸不全に対するECMO治療が普及する予定である。日本での肺移植を含めた移植医療については、まだまだ普及しているとは言い難い。今後その分野での発展も見込めることも、ECMOプロジェクトを円滑に進めるために分野であると感じた。

ECMO回路交換については医師の監視下でECMOナースが行っていた。ナースにおける可能な医行為について、日本よりはるかに広く行うことができる。確かに仕事量が増えるが、一方でECMOについての知識を深め、責任感が生まれ、さらには給料もアップする。この体制についても日本が学ぶべきところではないかと感じた。

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ECMO施行中は、ECMO回路は常にスタンバイされており、CT移送中はFFPなどの輸血も溶解したものを常備していた。日本で医療資源、医療費の問題がありそのまま導入するのは困難である可能性が高いが、トラブル発生時の速やかな対応には必要と感じた。

まとめると、スウェーデンと日本におけるECMO治療、管理についての違いを痛感させられた。その中で日本におけるECMOプロジェクトの目標でもある、ECMOセンター化が最も必要であると感じた。日本のシステムでは多くの施設でそれぞれECMO管理を行っており、1施設における年間施行回数も少ない。そのような施設が多くあってもプロフェッショナルな管理は行えない。単にECMOの症例数だけではなく、機材の問題、トラブルシューティングなどのシミュレーションなど、常にスタッフの技術の維持を図るためにもセンター化は必須である。ECMOセンター化をすることがすなわちECMO管理、治療成績を短期間で向上させるために最も重要であると考えられる。

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最後になりましたが、カロリンスカ大学ECMOセンターでお忙しい中熱心に教えて頂いたDrパルマーはじめスタッフに感謝するとともに、このような機会を頂いた日本医科大学のECMOプロジェクトリーダーの竹田教授に深謝致します。