山下 千鶴

1989年
愛媛大学医学部麻酔・蘇生学教室入局、同大学病院で研修
1991年
市立宇和島病院(南予救急救命センター)麻酔・集中治療科勤務
1996年
長男出産
2004年
宇和島社会保険病院麻酔科勤務
2011年
藤田保健衛生大学 麻酔・侵襲制御医学講座勤務

私が麻酔科医を目指した理由

学生時代から、種々の循環作動薬によって様々に反応が異なる循環管理に興味を持っていました。ですので、科を選択するに当たっては循環器科も考慮していました。が、母校の循環器科の雰囲気が自分と合いにくいと感じた事、女性として結婚後も仕事を続けやすいと思われたなどの理由で、究極の全身管理を学べる麻酔科に入局しました。

私の現在のキャリアについて

最初の赴任病院で三次救急救命センターの立ち上げに出会うことができました。ゼロからの出発は当初は大変でしたが、コメディカルの人たちと医療を作り上げていくことの楽しみを体験することができました。非常に重症度が高い患者さんに集中治療を行うことによって救命に結びついていくことに充実感や悦びを感じ、麻酔科の仕事の中でも集中治療の分野が自分のライフワークだと感じるようになりました。中でも93年ごろから取り組んできた急性血液浄化が持つ秘められた能力に魅せられ、持続血液濾過透析(CHDF)やエンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)を中心に仕事をしていました。この病院に赴任中に地元の方と結婚したために、約14年という長期間にわたって一つの病院に勤務したのですが、だからこそ地方の一般病院からでもまとまった結果を発信することができたと思っています。西田教授に出会ったのも、血液浄化関係の学会でした。また、出産、育児を経験しながらの勤務でしたが、主人や子守りさんをはじめ同僚の先生方や周りの方々のサポートのおかげで常勤での勤務を続けられてきたことにも感謝しています。

2004年からは同じ市内の二次救急病院で勤務しました。こちらの病院では麻酔および手術室の運営に加え、院内感染対策および感染症診療などにも力を注ぎました。他職種のスタッフとともに院内感染対策を行っていく中で、一つの目標に向かって皆で協力して達成する充足感を経験することができました。集中治療も細々と行ってはいましたが、赴任5年後にICUが閉鎖された後はどこかで集中治療に対する未練も残っていました。まだまだ発展途上の血液浄化法の効果を確立していくために、今後もこの領域に関与していたいというジレンマが心の奥深くにひそんでいました。

西田教授に藤田保健衛生大学 麻酔・侵襲制御医学講座で一緒に仕事をしないかとお誘いいただいたのは、そんな時期のある研究会でお会いした時でした。赴任中の病院に迷惑をおかけすること、母校の医局を離れなければならない事、自営業を営む主人をおいて単身赴任になること、この年で全く新しい環境に入る事など、非常に悩みましたが、施設見学に訪れた際に、西田教授を中心に一丸となって重症患者に対する滴定治療を行っている若い先生方のキラキラと光る眼を拝見し、集中治療に携わりたい気持ちがさらに大きくなり、仲間に入れていただく事を決意しました。主人が心から応援してくれたこと、息子が既に自宅を離れて寮生活をしている事も後押ししてくれました。長年、一般病院で勤務してきた私に、大学のスタッフとして働く機会を作ってくださった西田教授には心から感謝しています。

赴任して1年半経過し、新しい環境での単身赴任生活にもやっと慣れてきました。様々な専門分野の知識をもつスタッフによる質の高い集中治療は奥が深く、まだまだ毎日が勉強です。クローズICUとして治療成績を上げるために自分たちの責任が重い事、同僚の若い先生方や研修医、学生さんたちに対する教育に麻酔・集中治療分野の広範囲にわたる知識が必要とされる事、大学人として必要な世界に通用するグローバルな視点など、越えなければならない壁は数多く困難な事も多いですが、充実感に満たされた毎日を過ごさせていただいています。藤田の麻酔・侵襲制御医学講座でのチャレンジを選択して良かったと思っています。また、前任病院から取り組んできた院内感染対策や感染症診療に関しても、院内ICTメンバーに加えていただき、病院全体の感染対策やICUにおける抗菌薬適正使用などに関して、さらに研鑚を積ませていただいています。

仕事のやりがいや、仕事の中で得たこと

非常に重症度の高い患者が、呼吸・循環管理、栄養管理、抗菌薬、血液浄化療法を柱とした滴定集中治療によって改善し、救命に結びついた時の喜びが、集中治療分野の醍醐味だと思います。さらに、重症患者の救命は、自分たちの治療のみで成り立つものではなく、チーム医療としての看護師、臨床工学技士、検査技師、NSTチーム、感染チームなどに支えられて初めて達成できることを痛感しています。

また、これまで20余年常勤勤務を続ける中で紆余曲折はありましたが、一度も仕事を辞めたいと思ったことはありません。息子には申し訳ないのですが、育児よりも仕事を優先してきたようにも思います。このように仕事を続けることができたのは、非常に貴重な方たちとの出会いに恵まれ、支えていただいたからだと、人との繋がりに深く感謝しています。

私の進む未来とは

う~ん、難しいですね。漠然としたものとしては、女性ならではの細やかな心配りができる麻酔・集中治療医でしょうか。具体的には、今後も研鑚を積んで、まずは、大学で仕事をする機会を作ってくださった西田教授に恩返しをしたいですね。そのためには幅広い領域の勉強を続けていくとともに、これまで専門としてきた急性血液浄化や感染症に関してのサブスペシャリティーをさらに高めたいと思います。また、広く世界を視野に入れた仕事ができるよう、苦手な英語も頑張っていきたいと思います。

麻酔科を目指す方へ伝えたいこと

麻酔・集中治療分野は非常に奥が深く、一生を捧げる分野としても十分に価値があると思います。一方では、麻酔・集中治療で身に付く全身管理は、全ての科において役立つ基本的な管理でもあります。ですので、他科へ進む事を考えている方にとっても、2、3年集中治療に従事する事で、その後の専門領域もさらに深まると思います。また、日本ではまだまだ女性医師が一生仕事を続けていくには未だ十分なサポートが整備されていないのが現状ですが、そのような中で結婚、出産と仕事の両立ができやすい科の1つであるとも思います。