手術麻酔

「麻酔」という名の術中全身管理

われわれの行う麻酔は、豊富な全身管理の知識に裏打ちされたきめ細やかな「麻酔」という名の下の術中全身管理です。いかなる困難な症例でも安全に行うことがその基本であり、個々の症例で想定されるあらゆるリスクを想定し、あらかじめ対応策を考えておくことで、最悪の事態を回避することができます。これらの全身管理の知識は、集中治療に生かされ、さらに集中治療を通して培われた経験と知識が、高度な全身管理を要求される手術麻酔の局面にフィードバックされます。

日常の一見なんでもない症例の麻酔であっても、ひとたび何かが起これば即座に対応する迅速さも持ち合わせていなければなりません。これらの一見リスクのない症例でこそ、当たり前の安全性が要求されます。また、患者のアメニティを最大限に考慮し、術前の不安を取り除き、術後の質の良い覚醒と鎮痛に配慮した麻酔を行うことで、安心・安全な医療を提供します。

術前合併症のある症例や大手術では、術後ICU管理も含めたシームレスな術中・術後の全身管理を行うことで、高度な医療をサポートを提供します。外科系では、麻酔科医と協力することで術中・術後管理が安心して行えるため、呼吸不全や心不全のある症例の腹部手術など、従来では手術をためらわれたような症例でも積極的に手術が行えるようになります。

「手術をするから麻酔をかける」

われわれは「手術をするために麻酔をかける」のではありません。「手術をするから麻酔をかける」のです。

外科医には患者の体にメスを入れる医学的理由と正当性があり、患者もそれを「」として理性で判断して手術に臨みます。しかし「ヒト」としての患者の生体は、それらの侵襲を理解し、それに対する反応を自ら抑えることはできません。すなわち、頭では手術が必要と分かっていても、実際に切られれば痛いし、長い手術中に終りまで狭いベッドの上でじっとし続けるのは困難です。外科的侵襲が加わったとき、ホメオスターシス(内部環境)を維持するために、生体は必ず様々な防御反応を起こします。その生体防御反応は侵襲の大きさに応じて起こり、過剰な場合や持続する場合には自分自身を傷害することもあります。手術中に、外科的侵襲と過剰な生体防御反応から生体を守るために行う行為が「麻酔」であり、麻酔学とは「生体防御の学問」と言えます。

「予定された外傷」

手術とはいわば「予定された外傷」と言えます。予定手術の場合には、患者は術前評価を受け、血管確保からはじまり、気道確保、呼吸・循環・体液管理など麻酔行為自体が既にライフサポートのエッセンスで満ちています。これらは本質的に学生や研修医の医学教育の核となる部分であり、手術麻酔は全身管理の基本トレーニングとして最適です。

多種多様多数の手術症例

藤田保健衛生大学病院では、近年、飛躍的に手術件数が増加し年間1万件を突破しようとしています。これは全国的にみてもトップクラスの手術件数を誇っています。手術内容も、各腹腔鏡(DaVinchを含む)下手術(胃切除術、食道切除術、肝切除術、膵頭十二指腸切除術)、脳神経外科手術、移植手術(生体肝移植,膵腎同時移植、膵単独移植、腎移植)、口唇口蓋裂手術、心臓血管外科手術(虚血性心疾患、弁疾患、大動脈疾患、慢性肺動脈血栓塞栓症)など最先端の手術が数多く行われています。これらの手術を安全に支えるのが、われわれ麻酔科の仕事です。